
当事務所が、「相続」という場合、主に上記の2.を意味します。
では、包括的に承継(「包括承継」)とはどういった意味でしょうか。同じく大辞林第3版には、「他人のすべての権利・義務を一括して承継すること。相続・合併など。」と記されています。
読んでお分かりのとおり、亡くなった方のプラスの財産は承継するが、負債はいらないということはできないわけです。では、相続はどういった事由で発生するのでしょうか。
1つは、もっとも一般的な形態である、「人の死亡」です。もう1つは、法律上の手続により亡くなったものとして扱う「推定死亡」です。推定死亡は、例えば夫がふらっといなくなってしまって、もう10年近く経つが帰ってこない。兄弟の一人が急にいなくなって長期間音信不通。
家族がいやになって出て行ったのか、事故に遭ったり、事件に巻き込まれたりしたのか、いずれにしても生きているのか死んでしまったのかわからない状態です。仮に残された方が病気で働けないような場合、たまたま失踪者名義の不動産があり、それを売却すれば経済的に安定するにもかかわらず、これが許されないのでは残された家族や親族は困ってしまいます。
こういった不都合を回避するための規定が「民法」に用意されているのです。
ただ、この規定を悪用する者がいることも事実です。
さて、一般的な「人の死亡」による相続が開始した場合の手続の流れについて、順番に見ていきましょう。

具体的には、被相続人の出生時(12歳程度でも登記手続上はOK)から死亡に至るまでの戸籍謄本(等)を取得します。「(等)」とあるのは、転居された際に本籍も変えた場合、転籍前の戸籍謄本は「除籍謄本」となり、転籍後のものが「戸籍謄本」となります。
また、既に同じ戸籍に載っていたご家族の方が、死亡やご結婚などでその戸籍から除かれた場合に、その戸籍に最後に残っていた方が亡くなった場合も「除籍謄本」となります。
その他に法令の改正で戸籍の形式が改められることがあり、これにより改められる前の戸籍を「改製原戸籍」といいます。一概に戸籍謄本等の取得といって、非常に難しい場合であったり、長い期間を要したりすることも珍しくありません。
亡くなった方が結婚されていない場合や、結婚したがお子さんがいない場合は、相続人対象者が亡くなった方のご両親や養親、これがいなければ祖父母といった順で確認し、既に戸籍からこれらの方の死亡が確認できれば、次に亡くなった方のご兄弟を相続人として調べていくことになります。
相続人の確定作業は、司法書士の腕の見せ所と言える分野です。

もしも遺言書があれば、その内容に沿った形で相続手続が進められます。
「お世話になった方に財産を送りたい。」といった故人の遺志もあるかもしれません。
このような亡くなった方のご遺志は最大限尊重されなければなりません。しかし、すべての財産を遺言書どおりに分けてしまったら、財産の維持に協力した配偶者や子供たちに酷というものです。そこで「遺留分」という、やはり民法で認められた最低限の相続分があります。ですから、遺言書が絶対というわけでもありません。
遺言書が無い場合は、法定相続としたり、相続人間で協議をして誰が何をどれだけ相続するのかを決定します。この協議に参加できる者を確定させるために1に戻りますが、戸籍謄本等を取得していかなければなりません。
では、遺言書があった場合はどうなるのでしょうか。
まずその遺言書がどのような形式で作成されているのかが重要になります。一般的な遺言書の形式は「遺言公正証書」と「自筆証書遺言」の2種類に大別されます。自筆証書遺言の場合は、民法の定める形式に沿って作成されているかどうかを相続人立会いの下で家庭裁判所がチェックします。これを「検認」といいます。具体的には家庭裁判所に検認の申し立てをし、裁判所から相続人に遺言書開封の通知がされ、所定の期日に相続人が裁判所に集まって、いざ開封となります。
ところで、相続人となる立場の方全員に裁判所から通知がされるのは、裁判所のサービスではありません。検認の申し立てをする際に、申立人は戸籍関係の書類を全て揃えて裁判所に提出しなければなりません。ですから遺言公正証書の場合とは異なり、自筆証書遺言の場合は、遺言書が無い場合と同様に戸籍関係の書類はすべてそろえなければならないことになります。
なお、この検認手続がされていない遺言書では不動産の相続登記は受理されませんし、銀行口座の解約もできません。よって必須の手続となります。検認前に勝手に開けることもできません。
遺言公正証書の場合、作成にあたってはその道のプロである公証人が関与しているので、家庭裁判所での検認手続は必要ありません。
原本が公証役場に保管されていますので改ざんされる恐れがないので、中を自由に見ることができます。
ではここで「遺言書」についてもう少し詳しく見ていきましょう。
遺言書は、亡くなった方の最後のご意思を遺されたご親族や遺贈を受ける個人や法人に対してお伝えする書類です。財産権の帰属など法律上の効力を有する書類であるため、その方式や証人の適否等民法で細かく規定されています。民法の規定にある遺言書の方式を確認しますと、普通方式の遺言書として「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」があり、特別の方式として「死亡危急時の遺言」、「伝染病隔離者の遺言」、「在船者の遺言」、「船舶遭難者の遺言」がありますが、とりわけ覚えておきたいものとしては、先ほども触れましたが、普通方式のうちの「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」となります。なぜなら、遺言書の大多数がこの2種類で占められているためです。
さて、まず遺言書はその方式が細かく民法で定められているのですが、何をどうしたら無効になってしまうのでしょうか。それから有効無効の判断対象にはなりませんが、遺言の趣旨をきちんと伝えるうえで大切な内容(「付言事項」といいます。)も含めて確認していきましょう。まず、何をどうしたら遺言書が無効になってしまうのか。
- 全文・日付・氏名を自分の手で記載し、押印をしなかった場合
- 中途半端な日付を記載した場合「年月吉日」「年月大安」
- 加除修正等変更箇所について、変更した旨を記載して署名し、変更箇所に押印しなかった場合
- 夫婦2人で1通の遺言書を作成してしまった場合
- 15歳未満の者が遺言書を作成した場合
- 遺言書作成時に遺言ができる状態にない者による遺言書
- 配偶者や両親、兄弟姉妹といった関係でない者が後見人になっている場合に、その後見人やその配偶者や子・孫といった者に利益があるような遺言書を作成した場合
なお、公正証書遺言では、原則として形式的な不備により無効となることはありません。
公証人が形式面を厳しくチェックするからです。
- 遺留分を有する相続人の遺留分を侵害する内容の遺言書を作成してしまった場合
- 遺留分減殺請求を受けた場合に当該遺留分を侵害している範囲で効力が否定されます。
- 遺言書に不可能な条件を付した場合の遺言
- 例えば、死者を蘇らせるなど、とうてい不可能なことや公序良俗に反して無効なことを条件として甲土地を相続させる。などとしたものです。反対に、公序良俗に反することもなく、通常努力次第では十分達成可能な条件であれば、その条件を満たせばこの遺言書は効力を生じます。
次に有効な遺言書が複数あった場合はどうなるのでしょうか。
この場合、「甲土地をAに相続させる。」との遺言書が平成1年1月1日に作成されて、同じく「甲土地をBに相続させる」との遺言書が「平成2年2月2日」に作成されていた場合は、Bへの遺言書が有効であり、Aへの遺言書は撤回され効力のないものとなります。たとえ、Aへの遺言書が公正証書で作成され、Bへの遺言書が自筆証書であっても遺言書としての効力には何も違いはありません。
では、「甲土地、乙土地をAに相続させる。」との遺言書が平成1年1月1日に作成されて、同じく「甲土地、丙土地をBに相続させる」との遺言書が「平成2年2月2日」に作成されていた場合は、まずBへの遺言書はすべて有効であり、Aへの遺言書のうち「甲土地」についての遺言は撤回され効力のないものとなります。丙土地に関する遺言は有効です。
以上が遺言書の有無の調査と効力についてのお話でした。長くなりましたがそれだけ重要ということです。

以下の確認すべき財産については、被相続人の死亡時に残されたものはもちろんですが、被相続人から遺贈を受けたり、被相続人の生前に婚姻や養子縁組のためであったり、生計の資本として金銭や不動産その他の財産の贈与を受けていた場合には、このような財産についても、相続財産としてリストアップしておく必要があります。
また、その反対に相続人のどなたかが被相続人の事業のために労務を提供したり、被相続人の財産の維持や増加のために、金銭その他の財産を提供したり、療養看護をしたりといった特別な貢献をした場合は、特別の「寄与」があったと考えられます。こういった場合には、その寄与者に遺産を多めに配分されて然るべきでしょう。
では、具体的に確認していく財産です。
不動産の確認
不動産の所在地の市区町村役場で、「名寄帳」を閲覧し、被相続人名義の不動産を確認することができます。毎年春に市役所から送られてくる納税通知書も参考になります。なお、一口に相続手続と言いましても、実際に行う手続によって不動産の価格を見るときの物差しが異なるので注意が必要です。
例えば、土地、建物の相続登記の場合は、最新年度の固定資産評価額をもとに算出します。登記申請に際して、1000万円の不動産の場合4万円の登録免許税を納付しなくてはなりません(オンライン申請による軽減措置を除く)。
税務署への相続税の申告の場合は、土地は、路線価図や路線価のない土地は倍率表をもとに算出します。(路線価図はインターネットで比較的容易に確認できます。)建物は、建物固定資産評価額に倍率を掛けて算出しますが、1.0倍を掛けるので、結局固定資産評価額と同額になります。
さて、土地については、その形状や周辺地域の状況が大きく価格に影響しますから、相続資産が高額で相続税の申告をする必要がある方や、申告が必要かどうかの判断が難しい場合は、不動産鑑定士に鑑定評価をしてもらったほうが良い場合もあります。
また、土地の利用状況によっても評価が大きく変わります。例えば自宅の敷地であったり、事業をされている方で、その工場等の底地であったりと、生活や事業に欠かせないものであれば、大きく減額されます。相続税の申告が必要な方は、このあたりについては必ず税理士に相談ましょう。
金融資産の確認
預貯金、株式、国債、ゴルフ会員権などの確認をします。
預貯金については、通常亡くなった日付での残高を確認するのですが、もし親族の方の誰かに使い込みをされていないか心配な場合は、取引履歴を取られるとよいでしょう。
銀行預金等の解約手続きには1か月から2か月程度のお時間が必要です。銀行等には相続管理センターまたはそれに類する部署があり、相続を一括して取り扱っていることが多いです。また銀行によって手続に必要な書類や書式が異なりますので、個別に相談する必要があります。
相続登記の場合と同じく、戸籍関係の書類を一式提出する必要がありますから、短期間で相続のすべての手続きを終わらせたいとお考えの場合は、戸籍謄本等は複数ご準備された方がよいでしょう。
その他の資産
自動車、電話加入権、貸付金その他の債権や、もし借入金や住宅ローン等があればこれも相続財産の1つですから確認しましょう。絵画や骨董などの動産の確認と相場のチェックも必要です。
形見分け
故人の身の回りの品であったり、客観的には財産的価値がなく遺産分割に直接関係なさそう物であっても、勝手にもらってしまうのはやめましょう。これが原因で遺産分割がうまくいかない例もあります。
以上の遺産を確認したら、相続財産目録を作成します。これにより相続財産に何があり、どれくらいの価値があるのかが分かります。相続人が全員で確認して納得できると後でトラブルにならずに済みますから、面倒でも適当にすませることの無いように注意しましょう。

遺言書があれば、それに沿うことが基本です。しかし、相続人全員(受遺者がいればその方も含む)が納得しているのであれば、遺言書どおりに相続しなくても良いです。実際に亡くなる方の多くは、残念ながら遺言書を遺さずに旅立たれますから、相続人の皆さんで遺産分割協議書を作成することになります。
遺産分割協議書の作成
遺言書があれば、それに沿うことが基本です。しかし、相続人全員(受遺者がいればその方も含む)が納得しているのであれば、遺言書どおりに相続しなくても良いです。実際に亡くなる方の多くは、残念ながら遺言書を遺さずに旅立たれますから、相続人の皆さんで遺産分割協議書を作成することになります。
遺産分割協議
相続人の全員が集まり、どの遺産を誰がどれだけ相続するかを話し合います。これが遺産分割協議です。「04.相続財産の確認」でお知らせした財産が具体的に分けられるのです。
49日の法要や1周忌でご親族が集まった日の夜話し合っている姿がイメージされるのではないでしょうか。故人を看病したり、看取ったりした方は他の相続人さんにその努力をねぎらってもらったり、これに応じた財産分けを希望することが多いと思いますが、まずはそこをぐっとこらえましょう。
遺産分割をとりしきる者としての心得は、自分の主張をする前に、たとえ他の相続人の主張を聞いて、「お前は何様のつもりだ、ふざけるな。こっちの苦労も知らずによくそんな勝手なことが言えるな。」と思っても、他の相続人の考えとその理由を十分に聞くべきでしょう。あなたが気付かなかった不義理などもないとは言えませんから。そして、洗いざらい話させた後に、後日こちらの考えを冷静にお伝えした方が良いと思います。先方の心のつかえを取ることで、スムーズに手続きを進めることができます。
なお、遺産分割協議に弁護士や司法書士を立てて行う方も見えますが、それだけで角がたちますから、当事者同士でされたほうが絶対によいと思います。
遺産分割協議書の作成
皆さんがご納得されて協議書に署名し、実印を押印し、印鑑証明書を代表者に渡すというのが定番の流れでしょうか。書式に定まったものはありませんが、財産の特定がきちんとされて、後でもめ事の種にならないように注意したいものです。当事務所に原稿をお持ちくだされば、形式面についてのアドバイスもいたしますし、遺産分割協議書の作成も承ります。

遺産分割協議書の内容に沿って各不動産の登記名義を変更していきます。
協議書に記載する不動産の記載方法は、司法書士の確認を受けた方が間違いありません。
登記手続だけでよければ次の記載で足りますので、参考までに記載例を載せておきます。今は以下のたった2行だけで不動産の特定ができますので良い時代になりました。
上記の注意点は3つ
- 土地建物の区別をうっかり間違えないこと。どんな文書でもそうですが、最近はワードでコピペが多いのでうっかりやってしまいがちです。
- 管轄法務局を間違えないこと。何市の土地建物の管轄法務局がどこかというのは、今はインターネットですぐわかります。
- 不動産番号を間違えないこと。1つ違っただけで全く違う不動産になってしまいますのでくれぐれもご注意ください。
以上の2行をきちんと記載すると次のようになります。不動産が多い場合は結構大変ですね。
金融機関ごとに手続が若干異なります。ホームページからダウンロードしたり、窓口でもらったり、郵送されてきたりと、いずれも金融機関所定の用紙に相続人全員の自署し、実印を押印して印鑑証明書を提出するのが一般的なパターンです。不動産の名義変更の時と同様戸籍関係一式が必要になります。詳しくは、各金融機関にお問い合わせください。

被相続人 | 亡甲さん 65才男性 |
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相続人 | 妻と子供2人 |
相続財産 |
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手続きを5つに分けて考えます。
- 01.相続人確定作業及び評価証明書等取得作業
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市役所等で戸籍を取得する作業です。これは当然ながら人によって取得すべき数が異なるので、すべて揃うまで司法書士にもわかりません。戸籍謄本は1通450円、除籍謄本、改製原戸籍等は1通750円ですが、遠方であれば当然これらを取得するのに往復の郵送料がかかりますし、定額小為替や普通為替を買う必要もあります。これに係る手数料として定額小為替では1枚あたり100円、普通為替で430円必要です。戸籍等をたくさん必要とされる場合、この額が意外と馬鹿になりません。
以上のような実費に加えて、当事務所にご依頼いただいた場合1通につき2000円+消費税の取得報酬を頂戴しております。同一書類を複数必要とされる場合2通目からは300円+消費税を加算しています。特に急を要しない方は、ご自身で取得された方がお得ですね。私共への報酬分を稼ぐつもりで、ご自身で取得してみてください。戸籍の見方の勉強になったり、ご自身の先祖の流れを改めて知ったりすることも有意義だと思います。
次に不動産評価証明書等の取得ですが、納税通知書の原本があれば必要ありませんし、自治体によっては価格通知書とう書類を無料で発行しています。評価証明の取得手数料は自治体によって異なり、
1通300円といったところや、1通につき不動産5つまで記載されて200円といったところもあります。 - 02.遺産分割協議書等書類作成報酬
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作成書類の内容にもよりますが、甲さんの例では2万円+消費税です。
- 03.登記申請手続報酬
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不動産の評価額や筆数により異なります。また、不動産の管轄が異なると申請が別々になりますので、費用がその分高くなります。
甲さんの例で4万2200円+消費税です。 - 04.登録免許税
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登記手続費用の多くを占めます。不動産評価額の1000分の4が税額となり、登記申請時に全額納めなければなりません。
甲さんの例で10万円です。 - 05.登記完了後の不動産の登記事項証明書取得費用
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法務局の窓口で取得すると1通あたり600円、オンライン申請で取得すると窓口受取の場合は480円、普通郵便での受取の場合500円です。当事務所でご請求する金額は「480円」です。
以上から、01.をご自分でされた場合、02.~05.で16万6400円となります。
※登記事項証明書、住民票の取得や戸籍謄本の収集につき、別途報酬・実費がかかります。
※消費税については、平成26年4月1日時点の税率(8%)で計算しております。消費税の増加により税込報酬額は変更になります。